頭を使って!限られた時間で効率よく練習する方法とは?

限られた時間、練習方法

今年の7月にパソナで「~文化芸術立国に向けて~これからの社会における音楽家の働き方とは」というセミナーを開催しました。これからの音楽家の「社会での役割」「音楽家としての働き方」「仕事と音楽活動の両立のための練習方法」について、3名の講師の方にご講義いただきました。

どなたのお話も大変勉強になったのですが、本日はまさに、今日から始められる!「仕事と音楽活動の両立のための練習方法」について、振り返ってみたいと思います。

 

「限られた時間の中」で楽器の練習をするとは?


今の仕事が演奏家であってもそうでなくても、大学を卒業して社会に出ると、あっという間に自分のための時間がなくなります。なぜなら、“生活”が掛かってくるからです。それは月々の食費や家賃、光熱費などの生活費から、所得税や住民税、年金や健康保険などの社会的義務を負うということです。社会人として自立した生活を送るためには、好きな時間に好きなだけ楽器を練習するわけにはいきません。演奏家であれば、演奏の仕事をたくさん入れますし、演奏以外の仕事をしている方であれば、その仕事のために時間を割かなければいけません。そうなると、演奏家であれ、何かの仕事と兼業している音楽家であれ、1曲を仕上げるためにかける練習時間は自ずと短くなりますね。練習時間を確保する大変さはどんな働き方であれ共通の課題なのです。

 

限られた時間の中で楽器を練習する際のポイント


「『努力すれば上手く弾けるようになる』というのは嘘です。努力は人を裏切ります。“正しい練習”で努力をすることが大事なのです。間違った練習を続けるくらいなら、練習しないほうがマシです。」
・・・なんとも、インパクトのあるお言葉ですが、講師の古屋晋一氏が冒頭一番におっしゃった言葉です。ただ、これは決して感情的な言葉ではなく、脳科学の観点からジストニア症候群などの演奏家特有の故障を研究してこられた古屋氏だからこそ、導ける見解だと思います。間違った練習で万が一体を故障しては、音楽家としての活動すら危ぶまれる、という古屋氏からの警鐘です。では、限られた時間で練習する(焦って練習を重ねてしまう)状況において、どんなことに気をつければ良いでしょうか。以下より紹介したいと思います。

 

1. 下準備はしっかりと!完成イメージを明確にしよう


短い時間で効率的に曲を仕上げるためには、まずその曲の完成イメージを明確にすることが重要だそうです。古屋氏は「表現の仕方を決める」という言い回しをされていました。確かに、映画を制作するにあたり、いきなり撮影を始めることはないですよね。まずは企画・脚本があって、役者を決めて、ロケハンをして、制作スケジュールを立てて、小道具をそろえて、絵コンテを作って・・・と、その映画の中で“撮りたい画”をしっかりと固めた上でクランクインするわけです。1人で行うか、大勢で行うかの違いこそあれ、曲作りも同じです。その曲を、そのフレーズを、そのパッセージをどのように演奏したいのか、なぜそのように表現したいのか、曲に取り掛かる前に自分の中でしっかりと決めるべきだとおっしゃっていました。そして、こういった練習は必ずしも楽器がない環境でも出来ますよね。楽譜を読む、解釈を深める、音源を聴く、感性を育むことは、通勤の電車の中や移動中の隙間時間などを使うなど工夫しましょう。

 

2.ゆっくりと正確に。意図した表現を創造できるようスキルを磨こう


その曲の完成イメージ(表現方法)が固まったら、いよいよテクニカルな練習です。技術的な練習をする際、「反復練習」が大事というのはよく聞きますが、反復練習のためにも「仮説練習」が重要になります。ただ弾いているだけの練習法ではエラー(ミス)を認識するのに時間がかかるからです。さらにはエラーに気づかず素通りしてしまう場合すらあります。たとえば、どうしてもうまく弾けない箇所があったとき、体や筋肉をどのように使えば弾けるようになるのか、タッチの強さ、腕の角度、力の抜き方、姿勢の保ち方、メロディーの歌い方など、様々な観点から、どのように心と体を使えば弾けるようになるのか自分なりに仮説を立ててください。その上で、その仮説の検証作業(実際に弾いてみる)に入ります。仮説を立てて練習をすることで、普段は素通りしてしまうような細かなことにも意識が届くようになり、潜在的なエラーを認識することもできるようになるそうです。ただし、ここで注意しなければいけないのは、“間違った方法のまま練習を続けてはいけない”ということです。仮説→検証を繰り返す中で、なかなか思うように弾けない場合はそもそもの仮説を考え直す必要があるかもしれません。また、早いパッセージを練習する際には、ゆっくりと正しいフォームで弾けるようになってから速くするように心がけてください。力が入ったまま無理な練習を続けると、それが体の故障に繋がります。腱鞘炎や演奏家特有の故障を防ぐためにも、まずは正しいフォームを体に覚えさせるように練習しましょう。

 

3.暗譜の極意!脳の仕組みを利用して、記憶に定着させるコツ


さて、特にピアニストの方であれば、ある程度曲が完成した時点で「暗譜」の作業に入りますよね。楽譜の内容から体のフォームまで記憶にしっかり定着させるべく、脳の仕組みを上手く利用しましょう。ポイントは以下になります。

・寝る前に練習をする
脳は寝ている間に記憶を定着させる働きがあるそうです。寝る前に練習をすることで、より脳の記憶に残りやすくなります。

・声に出して練習をする
五感を使って練習をすることで、より深く脳に印象付けることができるようになります。また、声に出す(話す)過程において、脳はより複雑な動作を求められるため記憶も定着しやすくなるそうです。

・多様な方法で練習をする(リズムやアクセントの位置を変える等)
脳は新鮮な情報を好みます。同じ方法で長く練習を続けるよりも、多様な角度からその情報(パッセージなど)にアプローチすると、脳は常に新鮮な情報としてイキイキと処理してくれるでしょう。

・こまめに休憩をとる
脳が疲れた状態でいくら練習してもパフォーマンスは下がるだけだそうです。それであれば、短い時間でも集中できる環境を整えること、またそういった時間を1日の中でどれだけ捻出できるかに意識しましょう。

・睡眠時間をしっかりと確保する
脳は体の臓器の中でも非常に疲れやすい性質を持っているそうです。脳の力をしっかりと発揮するためにも、脳を休ませる意識も持ってほしい、とのことでした。「明日の練習のために今日休む意識も大事」とおっしゃっていました。

 

脳や体の仕組みを理解して、賢く練習をしよう!


完成イメージをしっかり練ることや、仮説練習、声に出して練習する・・・など、いずれもかなり頭や集中力を要する作業ですね。しかし、「頭を使えば身体は楽になる」とおっしゃったのも印象的でした。確かに、私も弾けない箇所を焦って何度も引いて手首を傷めた経験や、インテンポにこだわったがゆえに、体の力がなかなか抜けず最後まで不安な箇所を残したまま演奏会に臨んだこともありました。しかし、学生時代と比べて練習時間を“量”として確保できなくなった今だからこそ、短時間でも効果が得られるように練習の“質”を高めるべく、自身の練習を見直す必要があると感じました。

前回のセミナーが、大変勉強になったため(主催者なんですが・・・)、記事にして振り返りました。皆様も是非ご参考にされてくださいね。

 

※本記事は2016年7月2日にパソナで開催されました「~文化芸術立国に向けて~これからの社会における音楽家の働き方とは」の第3部古屋晋一氏講演『仕事と音楽活動の両立のための練習方法とは?~来るべき時に備える~』を基に作成しております。

 


2016-10-31 | Posted in コラムNo Comments » 

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